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乳腺炎とは

乳腺炎は乳汁を出す乳腺に炎症が起こす病気で、痛みや熱感、腫れ、しこりなどが生じます。産後2〜3週間くらいにもっとも起きやすく、大多数が6週間以内に生じます。乳腺炎の発症率には幅がありますが、2〜33%のお母さんに生じるといわれています。

乳腺炎の分類

乳腺炎には乳腺に乳汁がつまってしまう「うっ滞性乳腺炎」、うっ滞性乳腺炎の状態から乳腺や乳管に細菌が感染して生じる「感染性乳腺炎(化膿性乳腺炎)」の2つに分けることができます。
うっ滞性乳腺炎
一般的に片側の乳房に赤み、腫れ、しこり、痛み、熱感などが生じます。細菌感染をしていないので、化膿などの症状は見られません。 乳管が閉じてしまったり、授乳回数が少なく母乳が乳管内にたまってしまうことにより発症します。
感染性乳腺炎(化膿性乳腺炎)
うっ滞性乳腺炎から12〜24時間以内に状態が改善されず、赤みや熱感、痛みが増強され、なおかつ悪寒や高熱、身体の痛みなどの感冒症状が出ます。超音波検査で膿の溜まりを確認できます。
このように、乳房の張りがとれない、授乳時に痛みが出る、赤みが出るなどの症状が現れたら、乳腺炎の可能性があります。乳腺炎で生じる乳房の張りやしこりはは乳がんと類似しているので、まずは乳腺外科などの医療機関に受診することをおすすめします。

乳腺炎の予防・治療

うっ滞性乳腺炎は乳汁が溜まってしまったことが原因ですので、乳汁を除去する必要があります。そのため、授乳の間隔をあけない、マッサージしながら授乳、偏りなく左右それぞれから吸わせる、余ったら搾乳するなどで対処することができます。また、感染を防ぐためにも、乳首を清潔にしておくことも大切です。 感染性乳腺炎になってしまった場合は、抗生物質を服用したり、痛みや発熱がある場合は解熱鎮痛剤にて治療をします。参考:乳腺炎ケアガイドライン2020

乳腺炎の漢方薬治療

乳腺炎は乳がんとの鑑別が難しいので、繰り返しになりますがまずは専門の医療機関で診てもらいましょう。漢方薬が使われる場面が多いのは、うっ滞性乳腺炎や感染性乳腺炎の初期もしくは何度も再発を繰り返す乳腺炎かと思われます。特に何度も乳腺炎を繰り返してしまう方は、治療だけでなく、予防の観点からも漢方薬がおすすめとなります。漢方薬は、乳腺炎を起こしやすい身体の状態(不健康な状態)を健康な状態に整える働きがあるので、乳腺炎の再発を予防するのをサポートしてくれます。また、乳腺炎のみならず全身の状態も整えるため、産後のホルモンバランスの乱れや身体の疲れを改善する効果も期待できます。 また、授乳中に漢方薬を服用しても、今のところ赤ちゃんにはほとんど影響はないとされています。 *ただし、乳腺炎の治療に限りませんが、漢方薬の中にも作用が強いものもありますので、専門の医療機関で診てもらうのをおすすめします。参考:妊娠・授乳中の方へ(日本漢方生薬製剤協会)

初期の漢方薬治療

漢方では乳腺炎のことを乳癰(ニュウヨウ)と呼びます。癰(ヨウ)とは、腫れや赤み、しこり、化膿などを伴う化膿性疾患のことをあらわしています。初期の場合は、うっ滞性乳腺炎から化膿性乳腺炎と徐々に移り変わっていきますので、状態を確認しながら的確に病態を見極めていく必要があります。 乳腺炎の初期の治療は、発熱や寒気などの感冒類似症状が出ることもあり、体表面の血流を改善してうっ滞を除く方法が効果的です。
葛根湯(カッコントウ)
感冒の初期症状に用います。肩のこりに用いることから、乳房のはりにも応用されています。乳汁分泌を促す作用があるため、乳腺炎に限らず、母乳の出が悪い方に用いることもあります。同時に、乳腺炎初期の感冒症状の改善も期待できます。炎症が強い場合には石膏(セッコウ)を、化膿がみられる場合は桔梗(キキョウ)などを追加すると良いでしょう。 母乳の出をよくする治療については、こちらを参照ください。 参考:母乳を増やす漢方薬、母乳を減らす漢方薬
悪寒や発熱などの症状がなく(弱く)、徐々に化膿し始めましたら、十味敗毒湯や荊防敗毒散などの処方が適応となります。
十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ) 荊防敗毒散(ケイボウハイドクサン)
癰(ヨウ)の初期に用いられる処方で、悪寒や発熱はあっても軽度で、腫れや痛みを伴うものに用います。乳腺炎に限らず、初期の皮膚病の化膿性・炎症性疾患に用いることもできます。
排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)
発熱や悪寒がなく、化膿があるものに用います。桔梗(キキョウ)・枳実(キジツ)で膿を出し切り、芍薬(シャクヤク)・枳実・甘草(カンゾウ)で乳房の張りを和らげる作用があります。

炎症が強くなったら

初期(数日以内)に治療しなかったり、治療に失敗してしまうと、炎症や化膿が強くなっていきます。こうなると、初期治療では対応ができないため、炎症を抑える作用を強化した漢方薬に切り替える必要があります。
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
黄連(オウレン)・黄芩(オウゴン)・黄柏(オウバク)・山梔子(サンシシ)からなり、いずれも身体の炎症を除く作用があります。炎症による赤み・化膿・痛みに強力に作用します。ですが、対症療法的に使われるため、症状が改善したら速やかに使用を中止します。

再発の予防

一般的に女性は、出産に伴いエネルギー源である気(キ)や身体を栄養する血(ケツ)が多量に失われます。なおかつ子育てが忙しく睡眠や食事がままならないと、気血が一向に回復していきません。そうなってしまうと、血行不良を起こして母乳がうっ滞しやすくなったり、免疫力が低下して感染しやすくなり、乳腺炎になりやすく、一度治っても再発しやすくなります、漢方薬は病気を治す治療だけでなく、身体に足りていないものを補う作用があります。体力が落ちて、何度も乳腺炎を繰り返す方は漢方薬で体に不足した栄養(気・血)を補っていくことで再発を予防することができます。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
気・血を補う代表的な処方になります。黄耆(オウギ)・人参(ニンジン)で気を補い、体力を増やすます。黄耆・当帰(トウキ)で血を増やし、血流を安定化させます。産後で体力が落ちたり、寝不足で疲れが蓄積している方に効果的です。また、黄耆には皮膚を安定化させる作用がるので、体力が落ちて治り切らない乳腺炎にも効果的です。
十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)
補中益気湯のワンランク上の処方に位置付けられています。疲れだけにとどまらず、肉付きも悪く痩せてきてしまった方に用います。気力を補う四君子湯(シクンシトウ)、体を栄養し肉付きをよくする四物湯(シモツトウ)、それに加え黄耆(オウギ)・桂枝(ケイシ)で血流を改善して皮膚の再生を促します。
帰耆建中湯(キギケンチュウトウ)
補中益気湯や十全大補湯と同様に用いられます。もともとの身体の弱りがあり、なおかつ緊張感をはらんだ体質の方に用います。芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)は緊張を緩めて、血流を促す作用があり、乳房の張りを軽減することができます。
芎帰調血飲第一加減(キュウキチョウケツインダイイチカゲン)
身体のエネルギー源である気、身体を栄養しホルモンバランスを整える血を補い、血や母乳の流れをよくする活血(カッケツ)作用、乳房の張りや気分の落ち込みを改善する理気(リキ)作用を含んでおり、産後の幅広い症状に対応できます。乳腺の初期から再発予防まで使うことができるバランスの良い処方です。

まとめ

乳腺炎はマッサージや授乳を工夫することで、ある程度改善したり予防することができます。ですが、乳房の腫れやしこりはまれに乳がんの可能性があるので、まずは病院で診てもらうことをオススメします。その上で漢方薬が適応となるのは、乳腺炎の初期症状もしくは繰り返し再発する乳腺炎の予防と治療になります。乳腺炎でお困りの方はぜひ、ご相談くださいませ。

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薬剤師 今井啓太

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