
母乳を増やす漢方薬、母乳を止める漢方薬について調べてみた
先日、こんなお問い合わせが。
お客様「そちらに母乳を止める薬はありますか?」
私「えっ⁈(とっさの事に同様)うちにはないです(汗)」
ちょうどドタバタしている時間帯だったこともあり、
反射的に返してしまいました。
その後一段落してから冷静に考えると、
もっとしっかりと話を聴いておくべきだった、
浅はかすぎる考えだったかも、、、
と思い、改めてちゃんと調べてみる事にしました。
母乳はいつまで出るのか?
★漢方では体が丈夫であればあるほど、母乳は出る
母乳はいつまで出るのかについては、
様々なところで述べられているので、
漢方的な解釈で解説します。
漢方では「母乳=気血の変化したもの」と考えられます。
『諸病源候論』巻之四十四
「産後血液と水分が失われるけれど、
血液旺盛な者は水分も旺盛である。
そのため、乳汁が多く溢れ出てくるのである」
『校注婦人良方』巻之二十二産後乳少或止方論第十一
「婦人の乳汁は気血が変化したものである。もし元気がなければ、
乳汁は少なくなる、初産で乳房が張るのは、乳が通じていないのである。」
と記載されています。
確かに血液と母乳は色が全く違うのだけれども、
血液が乳まで栄養を運んで、
母乳が作られると考えるとわかりやすいですね。
したがって、血流がよく栄養がしっかり整った体の人
(元気な人程母乳は出るという事です)
当たり前と言われれば当たり前なのですが・・・
産後は体力がガツンと落ちやすい時期なので、
食事・睡眠はより一層大事になってきます。
母乳を増やす漢方薬と減らす漢方薬
★母乳を増やす=気血を補う漢方薬、血流改善、(乳腺炎の治療)
★母乳を止める=気血を補う漢方薬、ホルモンバランスの安定
では、漢方薬ではどうやって治療をしていくか?
これについてまとめます。
母乳を増やす漢方薬
①体力低下による場合
母乳は「血」の一部であることを考えると、
シンプルに「血」を増やす漢方薬を用いるのがベストです。
出産には大量のエネルギーを消費します。
分娩時に出血過多になったり
さらに子育てで十分な食事や睡眠が取れない、
もともと体が丈夫でない人は、
母乳の元となる気血を生み出すことだできず、
母乳が出なくなってしまいます。
従って、漢方薬で胃腸を底上げして、気(エネルギー)や潤い分(水)、
血を効率的に生み出せるようにしていきます。
<気・血・陰を補う処方>
・八珍湯(はっちんとう)
血を補う四物湯(地黄・当帰・芍薬・川芎)と
気を補う四君子湯(人参・朮・茯苓・甘草)を
組み合わせた処方。
もともと体力があるもの、一時的に体力不足に陥った時に用いる。
・温経湯(うんけいとう)
産後で失った血や体液などを豊富に含んだ処方。
さらに胃腸の状態も改善する作用があるので、
幅広く用いることができる。
備考:
乳腺炎の治療はこちら。
②血行不良による場合
産後は体調変化や環境変化により、
ストレスを抱えやすい時期です。
このストレスにより、気血の巡りが悪くなると、
乳房に良質な血液が送られず、
母乳が出なくなってしまいます。
ストレスを解除して気血を巡らせることで、
乳房の張りを取り除き、
母乳を出やすくさせます。
<処方>
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
イライラや落ち込み、抑うつなどの精神症状に用いる代表処方です。
精神症状だけでなく、気血を巡らせて詰まりを取り除きます。
母乳を止める漢方薬
母乳がたっぷり出るのはとても素晴らしいことです。
なぜなら母乳はお子様にとっての最高の栄養になるからです。
ですので、お母さんの体がしっかりしていて、
病的に母乳が出ているわけではない場合は、
治療の対象となりません。
では、どんな時に治療となるのでしょうか?
考えられる原因は2つあります。
①体が弱り母乳を止める力が落ちている
②ホルモンバランスが崩れて母乳の出す量が狂ってしまう
一つずつ見ていきます。
①体力低下による母乳が出すぎてしまう場合
あれ・・・?さっきは体力低下の場合は
母乳が作られないから、出なくなるって書いてなかったっけ?
そうでしたよね。
気血の低下は母乳の低下に繋がります。
確かに母乳の生成量は低下するのですが、
それでもある程度は作られます。
しかし、出すぎてしまう場合は、
ギュッと引き締める力が落ちてしまった場合です。
例えば、おじいちゃんが尿のキレが悪くなって、
尿漏れをしてしまう場合を想像してもらえると
わかりやすいでしょうか。
この場合も決して小便量が多いわけではないけど、
尿をピタッと止める(出し切る)力が弱ったことで、
漏れ出てしまいます。
母乳でも同じように、出し切るもしくは止める力が
弱っているので、ダラダラと出てしまいます。
このような場合も体力を補いながら、
母乳が過度に出過ぎないように、
引き締める処方を用います。
処方は全く同じになります。
<処方>
・八珍湯(はっちんとう)
・温経湯(うんけいとう)
②ホルモンバランスの異常による母乳過多の場合
本来は出産後に出る母乳も妊娠中に出てしまったり、
色が濃くどろっとした母乳が多量に出る場合は、
ホルモンバランスが不安定で母乳のコントロールが
できていないと考えられます。
このような場合は、メンタルに不調が出やすく、胸も張って痛く、
体温調節も乱れて、ほてったり寒くなったりとします。
この場合も先ほどの血流を改善する処方と同じ処方になります。
<処方>
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
(その他の治療法)
・麦芽(ばくが)
大量の麦芽(30-60g)には回乳作用<乳を回(かえ)す>があり、
乳汁分泌を抑制すると言われています。
まとめ
いかがでしたか?
母乳について漢方薬での捉え方について、
少しでもご理解いただければ幸いです。
まとめますと、母乳が出やすい出にくいは共に
著しい体力の低下、血行不良、ホルモンバランスの乱れ
これらによります。
生活習慣の見直しを図ると共に
どうしてもそれでは改善しない場合は
一度お近くの漢方専門の医療機関に
ご相談ください。
参考文献
・中医婦人科学
・諸病源候論 巻之四十四(産後乳無汁候・産後乳汁溢候)
・校注婦人良方 巻之二十二(産後乳少或止方論第十一)
・景岳全書 巻之三十九(乳病類)